壊れた狼――最後の望み――

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 ざわざわ……俺の尖った耳が物音を聞きつける。 血と肉と火の臭いを鼻が嗅ぎつける。  性懲りもなく人間がやってきたようだ。 しかし、所詮相手は人間。 特殊な職業の奴でもいない限りまず負けはしない。 「居たぞ!  一匹だ。  かかれぇっ!」  相手は指揮者が一人に弓装備が二人、剣装備が五人か見たところ例の奴は居ない。 ……勝ったな。  矢が一本飛んでくる。 それを掴まえて鏃を見る。 案の定、何らかの液体が付着していた。 「鏃には毒……耐性がなければ脅威だな。  例えば人間……ひとつ!」  掴まえた矢を投げ返す。 矢は先ほど俺に武器を与えてしまった弓兵に突き刺さる。 なかなかの即効性を誇る毒だったようで、矢が刺さった弓兵は倒れてしまう。  何かのスイッチが、俺の中で入った。 「怯むな!  一気に畳み掛けろ」  一人残らず、コロシテヤル。 「ふたつ……みっつ」  襲いかかる剣士の脇をすり抜けて抜刀……逆手で持ち直して背中を突き刺した。 次にもう一本剣を抜いて次の剣士に袈裟斬を仕掛けた。 「こ、こいつ……戦い慣れてやがる」 「うわぁぁぁぁぁっ!」  さっき射ってこなかった弓兵が狂ったように矢を放つ。 二本、三本、五本、何本もの弓を一度に放つ。 「味方を考えない攻撃か……」  放っておけばいずれは流れ弾に当たる可能性もある。 「よっつ!」  木の枝を飛び移り、弓兵の背後に回り込んだ。 そして枝から飛び降りるのと同時に脳天へと剣を突き刺す。 「いつつ、むっつ!」  二本の剣を違う方向に投げつけて剣士を葬る。 後は指揮者と剣士の二人だ。 「ななつ!」  剣士の懐に飛び込んで首筋を噛み千切った。 鮮血が噴き出して俺の顔と上半身を汚す。 「終わりだ。  この森に手を出そうとしたことを悔いながら死ね!」  指揮者に向かって跳びかかる。 尖った爪で肉を裂き、尖った牙で肉を食いちぎる。  全身が真っ赤に染まるまで指揮者を嬲った俺は、もう声さえ発しないそれの息の根を断った。 「ハハハハハ……アハハハハハ!  やく……はやく……殺しにこいよ」  箍が外れてしまったかのように涙が止まらない。 今更、血の匂いに吐き気を催す。 爪を立てた手で顔を覆う。 鋭い痛みと共に俺自身の血が顔を赤く塗り直す。 「フフフフフ……アーハッハッハッハッハッハァッ!」
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