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十月。
肌に突き刺さるような風が轟々と唸りをあげていた。
木枯らしが茶色くなった落ち葉を巻き込み、くるくると踊っているようにも見える。
そんな中、片岡美咲は寒さに身を縮こませていた。
マフラーに首をうずめる姿は、さながら亀のようだ。
コートや手袋では隠れない耳がちぎれそうなくらい痛い。
見ることはできないが、恐らく真っ赤になっていることだろう。
再び木枯らしが吹き、反射的に首に巻いたマフラーに顔をうずめる。
昼間とは違い、夜では寒さに差がありすぎる。
凍てつくような風に身を縮込ませながら、家路を急いだ。
その日は運悪くも、車を車検に出していたため家からは歩いてきたのだった。
美咲が経営しているネイルアート店、『スウィート・エンジェル』は大通りから少し外れたところにあるためタクシーはなかなか捕まらない。
特に歩いていけない距離ではないので、美咲は歩いて家路を辿った。
――早く家に帰ろう。早く家に帰って風呂に浸かりたい。
その思いが美咲の住むマンションの近道である芦屋公園に足を向けた。
この公園を抜けたところに点在しているのが、美咲の住んでいるマンションだ。
逸る気持ちが足を急がせる。
せかせかと足を速めた、その突如のことだった。
「……っ!」
後方から闇に紛れた二本の腕が、にゅるりと美咲の体にまとわりつく。
街灯の明かりはぽつりと点灯しているだけで、なんら役にも立たない。
美咲は驚きと恐怖に顔が歪み、声にならない悲鳴を上げる。
助けを呼ぼうとするが、声が出ない。
否、出すことができない。
太い腕にがっちりと押さえつけられ、あまつさえ角ばった大きな手で口を押さえられてしまえば、女の美咲になすすべは無い。
美咲を取り押さえている人影は、体格などから言って男であることは間違いはない。
じたばたと足を動かし己の手で相手の男を突き飛ばそうとするがさすがに男に通用することなく、あっけなく取り押さえられてしまった。
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