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それはチュブエルから南へ下ったところにあるシリアという港町。
波止場には大小様々な船が多く並び、埠頭では人々が忙しなく動き回っているのが見て取れる。
決して都会ではないが、活気のある賑やかな街だ。
そんなシリアの波止場の一角にこの日、一隻の木船が着いた。
それほど大きくもなく、旗も掲げていない一見地味な船である。
船体には大きく“カタルナ号”と描かれている。
この船は世を賑わせている海賊、カタルナ海賊団のものだ。
地味な見かけは海賊だとバレるのを危惧してこういった港で目立たないように、である。
「わー!久しぶりのシリアね!半年ぶりくらいかしら?」
船が港に着き、嬉しそうな声を上げて船から身を乗り出したのは茶色がかった金髪を無造作に束ねた小柄な少女だった。
亜麻布のシャツにくるぶし袖のズボンが良く似合う男勝りな感じの女の子だ。
決して美人ではないが淡いブルーの瞳をキラキラとさせる様は実に愛嬌があって可愛らしい。
「シャルディ!身を乗り出したら危ないよ」
そういって不安げに彼女に近づいてきたのはまるで海が似合わない青年だった。
金髪に真っ白な肌、緑がかった瞳、端正で美しい顔立ち。
彼はまるで絵本から抜け出てきた王子様のようだった。
「だって!もうすぐ帰れると思ったら嬉しくて!!」
シャルディと呼ばれた少女は仕事も忘れて、久々の故郷の空気に触れはしゃいでいた。
その時、思いがけず彼女は足を滑らせてしまった。
「きゃっ!!!」
「わっ!だから危ないってば!」
青年はすんでのところで腕を伸ばし、彼女の体をしっかりと抱きとめていた。
「ね、言ったろ?」
そういって彼はニッと意地悪な笑みを浮かべる。
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