招かざる訪問者

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嫉妬と怒りを含みドスのきいた声で小言を唱えていたのは、その声におおよそ似つかわしくない小柄な少年だった。 額にくっきりと傷が残っているのが残念だが実に愛らしい。 しかし、見た目に反して口が悪いのが玉に瑕(きず)だ。 彼はこの船の航海士、レイジー・マルチネスである。 ちなみに見た目は少年のように見えるが実年齢はシャルディやエドワードよりも年上らしい。 「見せつけてくれちゃってさ。何なの?オイラだけ罰ゲームなの?」 レイジーの表情はにこやかだったが、口調にところどころ棘が見える。 彼は今、相当イライラしているらしい。 それというのも彼は目下シャルディに片想い中なのである。 それなのに他人とのラブシーンを見せつけられたらたまったものではない。 「だったらあっちに行けばいいだろ!」 「やなこった!オイラのシャルディに手を出されて黙っていられるもんか!」 「レイジー、何か勘違いをしてるんじゃないか?シャルディは僕のものだから!婚約だってしてる」 「だから?そんなのオイラにとってはたいした問題じゃないね」 「相変わらず道徳意識のない奴だな」 「それをいうならお頭もだろ!ところ構わずいちゃいちゃしやがって。見せつけられるこっちの身にもなってみろよ!超迷惑!!」 二人の間にバチバチと見えない火花が散っているかのようだ。 「オイラがいるうちは絶対にヤらせないからな!」 「ふざけないでくれるかな」 「オイラは大マジだ!お頭だけにいい思いさせてたまるかっての!」 ―なんてことを言いあっているんだろう、この人たちは。 ぎゃあぎゃあと口論を続ける二人を横目にシャルディは人知れず大きなため息をついた。 その時だ。 長身の影が揺らめいたかと思うと黒髪を一つに束ねた逞しい青年が姿を現した。 小麦色の肌がまさに海の男という雰囲気を醸し出している。 彼はフィリップ・ゴードン。 エドワードの幼馴染であり、彼のお目付け役である。
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