120人が本棚に入れています
本棚に追加
カタルナ号にイヴァンがやってきてからは船内に重い空気が立ち込めていた。
食堂には湯気の立った紅茶とスコーンが用意され、イヴァンを取り囲むように船員たちが会している。
なんとなくぎこちない空気が流れ、お互いが顔を見あわせて戸惑いの表情を浮かべている。
「それで何しに来たんだ?」
そんな中、先陣を切って口を開いたのはエドワードかと思いきや、フィリップだった。
どうやら彼も元々王宮勤めの人間だっただけあって、このイヴァンという青年を知っているらしい。
「そんなこと言わなくても大体察しはついているのでしょう?」
イヴァンは差し出された紅茶を口に運びながらぬけぬけと言った。
「どうせエドワードを連れ戻しに来たんだろ」
「ええ、その通りです」
エドワードが家出同然に王宮を飛び出してきたのは3年ほど前。
今まで彼に追手がつかなかったのは不思議なくらいだったが、ついに居所がバレたらしい。
「僕は帰らないよ」
頑として拒絶を示したのはエドワード。
理由は知らないが、どうも彼には王宮に戻りたくないわけがあるらしい。
「…そういうと思ってました」
「だったら話が早いね。そういうわけだから早々に帰ってくれるかな?」
エドワードは努めて明るくにっこりと笑顔を浮かべたが、作り笑顔ではイヴァンも負けてはいない。
「いえ、そういうわけにはいきません。何としてでも王子には戻っていただかないと」
まるで秘策でもあるかのように口元が楽しそうに歪んでいる。
昔から思っていたのだが、この男は本当に何を考えているのかよめず胡散臭いことこの上ない。
「帰らないったら帰らない!」
「そうだな。オレもエドワードの意志を尊重する。そちらの勝手にはさせない」
そこに割って入ったのはフィリップだ。
最初のコメントを投稿しよう!