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やはり予想を違わず彼女の用件は息子のエドワードのことであった。
昔からこの女はエドワードを溺愛しており、その過保護っぷりは目に余るほどと城内でも有名だ。
ただ問題はどうして自分が呼び出されたのか、だ。
心当たりはあるのだが、まさか彼女の耳に入るとは思いもよらなかった。
“壁に耳あり障子に目あり”とはこういうことをいうのだろうか。
「兄上がどうかしたのですか?」
アンドリューは極めて穏やかに尋ねた。
「エディが行方不明なのは知ってるわね?」
「はい。聞き及んでいます」
「実は半年ほど前、あの子をシリアという町で見かけたと言う目撃情報が入ったの。それであなたは何か知らないかしら?」
「…どうしてぼくが何か知っているなんてお思いになるんです?」
「それはもちろん、あなたが同じ時期にシリアに出入りしていたからだわ」
アンドリューを見透かすように彼女に妖艶な笑みが浮かぶ。
彼女がどこまで知っているのかは分からないが、アンドリューが一時期、その辺りに出入りしていたことは調査済みらしい。
「あの子に会った?今は何をやっているの?元気にしているかしら」
アナスタシアはそういってアンドリューに詰め寄った。
様子から鑑(かんが)みるにエドワードとアンドリューが会ったという確証は得ていないらしい。
ならば隠すのが得策か。
というのも彼女にバレたらなんだかとてつもなく大変なことになりそうな気がするからだ。
「…いえ、お会いしてはおりません」
アンドリューは事実を胸にしまってきっぱりと否定した。
「本当に会ってないの?」
「はい、お会いしてません」
だが、言葉とは裏腹に彼の瞳が不安そうに揺れるのをイヴァンは見逃さなかった。
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