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「まさか兄上があんなところにいらっしゃったなんて思いもよりませんでした。兄上はどうしてそんなところへ?」
「わたしにも詳しいことはわからないのだけれど、どうやら船乗りになったとか」
「船乗り、ですか?」
「ええ。でもそれ以外は何もわからなくて。だからもしあなたが何か知っていたら教えてもらおうと思ったのだけれど」
「そうでしたか。お役に立てず、申し訳ありません」
「いえ、いいの。仕方がないわ」
彼女は残念そうに俯き、大きなため息をついた。
「それはそうと、ついでだから聞くのだけれど…あなたはどうしてシリアなんかに行ったの?王子のあなたが行くような場所ではないでしょう?」
ずばり、尋ねられてアンドリューは苦笑いを浮かべた。
「実はあの辺り、正確にはシリアではなくマデルンという田舎町なんですが…そこに友人が住んでいるんです。それで友人に会いに」
―そう、彼女は友人だ。嘘は言ってない。
「ご友人が?随分離れたところに住んでいるのね」
「ええ、まぁ」
「ちなみにそのご友人はなんという方なの?」
「…シャルディ・ラゼート嬢です」
「まぁ!女性の方なの。まさか王子の想い人か何かかしら?」
「いえ、そういうわけでは…」
「隠さなくてもいいのよ。はるばる会いに行くくらいだもの、きっと強く想っていらっしゃるのね」
彼女はそういうと勝手に納得したようだった。
確かにアナスタシアが言うように彼はシャルディ嬢に結婚を申し込んだことがある。
だが、残念なことに破談になってしまったけれど。
「あなたがシリアにいた理由はわかったわ。野暮なことを聞いてごめんなさいね。でも安心して、みんなには内緒にしておくから!」
「…はぁ」
こうしてアンドリューはアナスタシアから解放された。
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