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道路を愛車で走りながら時折近道と言うように路地裏を通っていたらあっという間に藤の家に着いてしまい、路肩に愛車を停めると家の前でうろうろしている茶髪の青年が目に入る。
「藤…」
「昶さん!もっと早くこういう話は持ち出してくださいよっ!」
「すまない…朝方ふと思い付いたんだ」
「もうっ…次は早めに言ってください」
苦笑する昶を見て藤は呆れていたが、玄関の方から誰かが出てくる気配に首を傾げる。
思い出したように慌てて藤が振り返ると、そこには綺麗な藍色の着物と藤色の羽織りを着た黒髪の眼鏡を掛けた穏やかな物腰の青年が立っていた。
「遼、彼がそうなのかい?」
「兄さん…また寒いのにそんな格好で出て来て…」
「ははっ、ごめんね?」
「……初めまして、東雲 昶です」
「こちらこそ初めまして…遼の兄の藤堂 遥です。」
「……いきなりの申し立てすいません。俺が卒業するまでの間、あの家を使ってくれる人を捜してたら遼の話を思い出して」
「いえいえ…こちらこそ嬉しい申し立てありがとう。本当に貸してもらって良いのかい?」
「はい、家賃とかはちゃんと俺が入れますから自由に使ってくれて構いません」
昶と遥が話しているのを見ながら一人仲間外れにされている遼がふて腐れているのに気づき、気を使ってか地図と鍵を受け取り中に入る遥を見送り昶は安堵の息を吐く。
不意に服の裾を引かれ、何事かと振り返れば少しふて腐れたように唇を尖らせる遼が居た。
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