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「香澄?香澄って、いま不登校になってるクラスメイトのことでしょ」
確かにクラスメイトの笠川香澄はここ一ヶ月学校に出てきていない。
美咲と香澄は趣味も合い、中学からの親友だ。
「うん…。あのね、私香澄の家に行ったんだ。でも、お母さんか帰って来てないっていわれたから、どうしようかと思ったの……」
たどたどしい舌足らずな口調で美咲は話し始める。
「それで、その帰りに私っ、香澄の姿を見たのっ!街角をふらふらしながらどこか行くみたいだったから……。それで、悪いとは思ったんだけど香澄をつけたの。そしたらここにっ」
消え入りそうな声に興奮するような感情が混ざる。
そしておもむろに制服のポケットから小さな薄ピンクの携帯電話を取り出した。
ここまでピンクか、と今は突っ込めるような空気ではない。
「これって……」
携帯のカメラ機能で撮られたそれは見る限り、どこかの施設のようで石に彫られた文字は『清新殿』と刻まれている。
さすが現代の機械は進歩しているというか。
かなり遠くから撮られているのにピントがはっきりとしている。
――って、そんなことに感心している場合じゃない。
「これって、たぶん宗教団体じゃない?確か、ネットで見たことある」
そう言ったのは以外にも晴菜だった。
あんまり機械系詳しくなさそうなのにな……。
「うん。私も気になって調べてみたの。そんなに危険なトコじゃなさそうだし、そういうのは人の自由だし」
確かにそれは他人にとやかく言われるものではない。
「でも、その後すぐ香澄が出てきたからチャンスだと思って話したのっ!なんで私にも言ってくれなかったのかって、なんで寮に戻っても来ないのって」
「そしたら?」
晴菜が先を促す。
「うん。そしたら目が凄い虚ろで「大丈夫だよ、美咲が心配するようなことじゃないって」って。――でも、それ見たら香澄が香澄じゃないような感じがしたっていうか…うまく言えないけど…とても正気じゃなかった」
再び美咲の声に震えを感じる。
「…私はどうしたらいいの?」
「私は…元の香澄に戻ってほしい…。また、二人でおしゃべりしたい…」
今度は本当に泣き崩れ、言いたい事をすべて言えたことからの安心感からか、それから数分。
とめどなく涙が溢れ出していた。
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