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「――おい、史帆。聞いてるのか?」
「――はい?」
いきなり掛けられた声に素っ頓狂な声を上げてしまった史帆は、見る見る顔が赤くなる。
そういえば、今はお昼休みだった。
自分の席で手作りの弁当を食べていたら、目の前から櫂に声を掛けられたのだ。
「な、なに?」
四年ぶりで見慣れてない上、いきなり男の子から声を掛けられるというのはあまり心臓に良いものではない。
すると櫂は自分の席に座りながら深い溜息を落とす。
「メシ。こぼれてるぞ」
「え?」
目線を下げれば机の上には胡麻のかけられたご飯が鎮座していた。
「あ、やば」
史帆はご飯を弁当の蓋の上にずらす。
はたから見れば、美男美女がさながら写真から飛び出したようだ。
少なくともクラスの生徒にはそう見えた。
「なんか考え事か?お前は昔から二つのことを同時にできない奴だったからな」
その言い草に少しむっとする。
「不器用ですいませんね。――で、なんか用?」
「ああ。おまえ、部活はやってるか?」
突然何を言い出すんだ、こいつは。
それなら、
「やってないよ」
その答えに櫂は満足そうに口を歪める。
「ならちょうどいい。――バイトしないか?」
「バイト?」
って、あのバイトでいいのか?
「なんの?」
興味は惹かれるが、あえてぶっきらぼうに質問する。
「スパイ」
ごふっ。
史帆はあまりの現実味の無さに噎せてしまう。
「はあ?」
四年も会わないうちに頭のネジでもどこかに落としてきたのではないだろうか?
冗談にしても面白くない。
「知らないのか?結構給料いいんだぞ」
何を呑気な。
「ちょっとこっち来い」
そう言って立ち上がり、昼食もそこそこに櫂を連れて屋上へと足を進める。
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