一日目

11/17
前へ
/19ページ
次へ
「本気で言ってるのか?」  目の前で腕を組みながら仁王立ちですごまれる。  かなりの迫力だ。  そんなことを思いながら椎野櫂は目の前の幼馴染、麻木史帆を見据える。 「なにが?」 「だから、スパイだとか現実味の無いバイトをする高校生がいるか、と言ってるんだっ!だいたい、そんな裏社会の人間がやるようなことを何で私がっ!」  憤慨したように言う史帆にくすりと櫂は笑う。 「何がおかしいっ」 「これを見ても嫌だというか?」  制服の内ポケットから一枚の写真を取り出す。  奪い取るように史帆が写真を取ると、みるみる顔色が変わる。  「何でお前がこれを!」  写真に写っていたのは、実に見覚えのある自分の顔だった。  しかも自分の一番見られたくなかった、自分の自営業。 何の自営業かというと、『万屋』。つまりは『何でも屋』 ネット上のあるブログで経営している、付けられた名称は『Tricksters』 通称――『罠師』 トリッキーな身のこなし、依頼は確実に、しかも丁重に片をつけるとあってネット上でかなり有名だ。 依頼数もなかなかなおかげで、両親のいない史帆にとって生活に困った支障も出ていない。 依頼内容としてはなかなか危険度の高いものが多く占めているが、史帆がヘマをして足がついたことは皆無。  自分の運動神経の良さをフルに活かした仕事だった。  それがなぜ―― 「なんでお前が持ってんだよ……」  友達に教えたことは一度も無い。  こいつに教えたことも、もちろん無い。 「仕事でな。この手の情報は手に入って来やすいんだ」  誇らしげに言う櫂だが、史帆にとってはぜんぜん面白くない。  不機嫌に顔を歪めた史帆に櫂は、再び別の写真を提示する。  やけになって「貸せっ」と奪い取る。  やれやれと言うように櫂は肩を竦める。  そんなことはどうでもいい。 「これっ」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加