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「本気で言ってるのか?」
目の前で腕を組みながら仁王立ちですごまれる。
かなりの迫力だ。
そんなことを思いながら椎野櫂は目の前の幼馴染、麻木史帆を見据える。
「なにが?」
「だから、スパイだとか現実味の無いバイトをする高校生がいるか、と言ってるんだっ!だいたい、そんな裏社会の人間がやるようなことを何で私がっ!」
憤慨したように言う史帆にくすりと櫂は笑う。
「何がおかしいっ」
「これを見ても嫌だというか?」
制服の内ポケットから一枚の写真を取り出す。
奪い取るように史帆が写真を取ると、みるみる顔色が変わる。
「何でお前がこれを!」
写真に写っていたのは、実に見覚えのある自分の顔だった。
しかも自分の一番見られたくなかった、自分の自営業。
何の自営業かというと、『万屋』。つまりは『何でも屋』
ネット上のあるブログで経営している、付けられた名称は『Tricksters』
通称――『罠師』
トリッキーな身のこなし、依頼は確実に、しかも丁重に片をつけるとあってネット上でかなり有名だ。
依頼数もなかなかなおかげで、両親のいない史帆にとって生活に困った支障も出ていない。
依頼内容としてはなかなか危険度の高いものが多く占めているが、史帆がヘマをして足がついたことは皆無。
自分の運動神経の良さをフルに活かした仕事だった。
それがなぜ――
「なんでお前が持ってんだよ……」
友達に教えたことは一度も無い。
こいつに教えたことも、もちろん無い。
「仕事でな。この手の情報は手に入って来やすいんだ」
誇らしげに言う櫂だが、史帆にとってはぜんぜん面白くない。
不機嫌に顔を歪めた史帆に櫂は、再び別の写真を提示する。
やけになって「貸せっ」と奪い取る。
やれやれと言うように櫂は肩を竦める。
そんなことはどうでもいい。
「これっ」
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