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一日目
「はぁーい、じゃあ出席を取りまーす」
軽やかな声を上げ、二年五組担任の高橋美那子はクラス全体を見渡した。
その声に反応してまばらに生徒は各々の席へと着席した。
麻木史帆もその一人だった。
といっても、一階の自動販売機から史帆お気に入りの紙パックのフルーツ牛乳を買って来た帰りなのだが。
お世辞にも大きいとは言えない身長へのたった一つの抵抗だ。
髪を頭部の高いところで結び、歩くたびにその長めのポニーテールの髪は揺れた。
藍色の瞳はくりくりとよく動いていて、活発そうだ。
人の合間を縫って自分の席へと辿り着く。
席に着くと隣の席の友人、柏崎晴菜が声を掛けてきた。
「おはよう、史帆ちゃん」
小鳥がさえずるようなそれは耳に心地のよいもので、どこか安心するような声だ。
「おはよ」
短く挨拶を返し、先程買ってきたフルーツ牛乳にストローを差し込む。
「相変わらず、史帆ちゃんはフルーツ牛乳好きだね」
「まあね。っていうか、甘いのが好きなだけだよ」
晴菜は高校に入ってからの友達だ。
ここ県立芦屋高校は、男女共学校の普通科で、生徒数4320人。
希望制で寮もあるゆえ、かなり大きな学校だ。
晴菜は史帆と寮が隣室で、そこから二人は友達となった。
「そういえば今日、二学年に転校生が来るんだって」
唐突な話の切り替えに少し驚いた。
「へぇ……転校生、ね」
そういえばこのフルーツ牛乳を買いに行ったとき、そこにたむろしていた他のクラスの奴が言ってたな、なんて事を頭の片隅で思う。
「しかも、男の子らしくて、二組の子の話によるとすっごいカッコいいんだって。どこの組に入るのかはみんな分かんないって言ってたけど」
「どうせ、どっかのチャラ男だろ」
周りの女の子に比べれば異性にあまり興味の無い史帆は関心も薄く、そういう話がよく分からない。
「チャラ男って……史帆ちゃんももう高二なんだから、そういうことに興味持った方がいいって。顔は可愛いんだから」
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