一日目

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「はあ?冗談、晴菜。私、全っ然可愛くないから」  そう言って、ないないと手を振る。  色恋沙汰にまったく興味の欠片も無く、むしろ体を動かすことが好きな史帆にとって、可愛い、なんて言葉は程遠いのだ。 「ていうか、むしろ可愛いのは晴菜のほうでしょ?」  ふわふわと緩く巻かれた胸まである髪、くりくりと大きな目、にこりと笑ったときのあの笑顔。  どれも史帆にはないもので、この間もたまたま告白されているシーンを目撃してしまった。  つまり、モテるのだ。 「そんなこと無いよ」  少し頬を赤らめながら、控えめに笑ってみせる晴菜に女の自分でも可愛いと思ってしまう。 「いや、そうだって。この間も――」  と、そこまで言って言い留まった。 「この間?」 「い、いや、なんでもないや」  この間告白を見てしまったことを言おうとしたのだが、これは言わない方がいいと思った。  なんだか盗み聞きをしていたようで感じが悪い。 「ふうん、変なの」 「えー、それでは、今日は皆さんに重大なお知らせがあります」 ふいに担任の美那子――皆からは美那ちゃんと呼ばれている――の声に反応して反射的にふり返る。  教室にはざわざわとした空気が流れる。 「今日から、このクラスに転校生が来まーす」  おお、というどよめきが走った。  あちらこちらから「このクラスだったんだ」とか、「やったね」などの声が上がる。  なぜだか女子軍がそわそわし始めたのは気のせいではないだろう。  隣にいる晴菜も例外ではないようで、 「やったね、史帆ちゃん」  などと、笑顔を向けてくる。  なにが?、と問いをぶつける前に、美那子の声が掛かる。 「さ、入ってきて」  美那子の声に応じてがらりと教室の扉が開く。  クラス中の視線(史帆を除く)が扉に集中すると、こつり、と靴音を立てて一人の男子生徒が扉から入って来た。 その刹那、女子軍から黄色い歓声が上がる。 前と横からも悲鳴まがいの声が聞こえるため、正直うるさい。
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