一日目

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顔を上げ、その転校生とやらを見てみた。 ちらりと目をやると、納得した。 ああ、なるほど。これなら女子が騒ぐのも無理も無い。 きりりと引き締まった上背のある逞しい体躯に、鼻筋の通った端正な面差し。 髪を肩口になびかせて、怜悧な面持ちをしている。 キメの細かい白い肌に、切れ長の瞳は黒曜石のような輝きを放っている。  これで、あの仏頂面でなければ、女子の黄色い声はさらにヒートアップしていただろう。 「か、かぁっこいい……」  隣では目をハートにした晴菜がうっとりとしているところだった。  こりゃだめだ、と史帆はため息をひとつ吐いた。  そして、史帆はなぜかその顔に目が離せなくなった。 (確か、あの顔どこかで見たことがある気がするんだけど……どこで見たんだっけ)  頭を抱えること数秒、彼の名前が頭の中をすべて繋げた。 「みんな静かにっ。彼の名前は……」  えーっと、と名簿を開く美那子をよそに彼は黒板の方を向き、チョークを手に取った。  黒板に白い文字が書かれていく。  みんなそちらに目が行く。  彼の細く、長い指先に視線が集まる。  かたり、とチョークを置いた彼はこちらに向き直った。 「椎野櫂。黒埼高校から転校してきました」 「――ですっ」  彼――もとい、櫂――の短い自己紹介に美那子が付け加えた。 「ですっ、て美那ちゃん……」  クラス内からは、美那の言葉に笑いが巻き起こった。 椎野櫂、椎野櫂、櫂……  頭の中をぐるぐると行ったり来たりするその名前の主を、はっと再び見上げた。 (思い出したっ……)  うっかり大声を上げそうになったのをやっと堪える。  しかし、それが真実なのかは定かではない。 (これは休み時間まで待つしかないか……)  休み時間、必ず確かめに行こうと史帆は心に誓った。  
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