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こつんこつん。
屋上への階段を上る音がやけに大きく響いて、鼓膜を揺らす。
キィーっと屋上の扉が開き中に入る。
案の定、櫂はそこにいた。
扉から真正面のフェンスに身を預けるように、空を向いて座っていた。
ふう、とひとつ溜め息を吐くと史帆は櫂の元へと歩き出した。
相手は気付いていないようで、さらに足を速める。
「よっ」
座り込んだ櫂の目の前に顔を差し出す。
相手は驚いたようで大きく目を見開いた。
「なんだ、おまえ」
まあ、そういうと思った。
「忘れちゃった?」
意地悪く聞いてみる史帆に櫂は少しも考えた様子も無く、「知らない」と呟く。
「そ。まあいいけど。あんたは昔からそう言う性格だったもんね」
そう言う史帆を、またあの無表情な目が見据える。
訝しげな視線に動じることなく、史帆は淡々と続けた。
「――じゃあ、これなら思い出す?」
にやりと口元を歪めれば、いきなり史帆は櫂の胸倉をつかんだ。
そしてそのままの流れを崩さず、滑らかな動きで後ろを振り返り、背負い投げの形に持っていく。
ふわりと浮き上がった体はきれいな円を描き、コンクリートの屋上の床に叩き付けた。
お手本のような背負い投げは見事に決まった。
すると櫂は史帆の腕を払い立ち上がる。
腕や制服についた屋上のほこりを払い落とす。
「……ずいぶんと、荒療治な思い出させ方だな」
その言い草の中に、にやりとした笑いがこめられる。
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