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『外も吹雪いておりますので、お帰りの際はお気をつけて』
一言一句違えてねぇ、間違いねぇと豪語する燎の言葉を信じれば、相手はひとまず丁寧で温和な性格なのだろうと思える台詞だ。
にこやかな照れ笑いをしつつ言われたのであればかなり可愛らしい青年だと思えるが、燎の話に『照れ笑い』なんて言葉は出てこなかったので、おそらく違う。
今度どんな方なのか、それとなく夫に聞いておこうと考えながら、椿は先を促した。
「それで?色好いお返事は頂けたの?」
もちろん、聞かなければいけないことだ。
なにしろ、燎はバレンタインのチョコを贈りに冬の国まで出向いたのである。
そこには何がしか、告白めいた雰囲気があったはずなのだが…
「は?お返事ってなんのことでぃ?」
「…そうね、そうだろうと思ったわ」
恋愛赤ん坊クラスの燎である。
好きな相手にチョコを贈る日。
だから、チョコを贈りつけた。よし!!と満足できてしまうような性格なのだ。
好きだー!!!と叫んで一人スッキリするタイプだ。
「一応秋の国の鍛冶屋、ということはわかっていても…細かい住所も知らないでしょうし。それじゃぁ、ホワイトデーは期待できないわね」
「ほわいほへー?」
ひとしきり彼の素晴らしさを語って満足したのか、椿の用意した羊羹を遠慮なく頬張りながら燎は聞き返した。
食べ物を口に入れたまま喋るのは、悪い癖だ。
椿の無言の睨みを受けて慌ててお茶で流し込むと、若干涙目になりながらも燎は改めて聞き返す。
「ほわいとでー、ってなんでぃ椿」
今さら教えても仕様がないのだが、はぐらかす意味もないかと椿は淡々と語った。
「バレンタインにチョコを贈った相手から、お返しをいただく日よ」
「え!わざわざお返し貰うのか!?お返しもらうためにチョコあげたってことか!?」
「そういうわけではないけれど…」
「てやんでぃ、粋じゃねぇな!」
今度はプンスカと怒り始めた燎に、もうホワイトデーについて言及するのはやめようと椿は話題を変える。
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