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「それより、受けていた仕事は全部終わったの?」
「ん!?おう、もちろんでぃ!冬に行ってる間待たせちまったからな、全部耳揃えて納品したぜ!」
「そう。それなら、しばらくはゆっくりしたら良いじゃない?ここのところ少し慌ただしかったし」
「いや、それがそうもいかなくてよ。愁坊からの頼まれごとがあんだ」
「…頼まれごと?仕事、ではなくて?」
「あぁ。なんか、冬の国に手紙を届けてほしいってんだけどよ…そのお相手が、あ…あえ…っそ、その!あの方、なんだよ…。ったく、もうちょい早く言ってくれりゃぁ一緒に持ってったのによぉ」
「…。良かったわね、お燎」
「良かねぇって!またトンボ返りじゃねぇか!」
「でも、またあの方に会えるわよ?」
「うっ…!そ、そりゃぁまぁ、そうだけどよっ」
「そうと決まれば早い方がいいわね。お燎、あなた一度家に戻って旅支度してきなさい。お父様にももう一度冬に行ってくる、ときちんとご挨拶するのよ」
「はぁ!?今からかぁ!?」
「もちろんです。私も何か手土産を用意しておいてあげるから、早くしてちょうだいね」
「えぇ~…?」
「お燎!」
「わ、わかったよぉ!」
凛とした声に叱咤され、燎はまたも涙目になりながら慌てて走りだす。
旅支度といっても、何しろ身形に興味のない燎のこと。
実際には、留守中の仕事を先代である父親に託す挨拶だけをして、すぐに戻ってくるに違いない。
色恋に縁のない友人のため、椿は襷をかけると手土産作りに勤しむのだった。
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