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そして…冬の国。
ずぼ、ずぼ、と、一歩一歩が雪に埋もれているような足音が響き渡る。
幸い吹雪いてはいなかったが、はらはらと舞い落ちる雪がやむことはなく、今日も今日とて寒かった。
「ぜぇ…ぜぇ…これ、あたい、何の修行だっつぅ話だろ…」
秋の国から、酒瓶担いで延々歩いて来たのである。
いかに漢のようなお燎と言えど、体力的には結構なキツさだった。
ようやく冬のお城が目前に迫り、あと少し…!と自分を鼓舞して歩みを進めるが、不意にそれを阻むように人影が立ちはだかった。
「お、綺麗なお姉さんじゃーん!見たとこ冬の人じゃねぇけど、何してんのこんなとこで?」
視線を上げれば、そこには華奢な女の子がにこにこ笑いながら仁王立ちをしていた。
「お?あ、あたいのことか?」
「そうだよ、君以外いないじゃん!」
「たしかに。あたいはお燎!秋の国で鍛冶屋やってんだ。なんか困ったことがあったら遠慮なく言ってくんなぁ!」
「へぇ~、お燎ちゃんか。元気いっぱいで可愛いね♪俺はヴァイス!好きに呼んでくれてかまわねぇ」
にっこり。
朗らかな笑顔も差し出された白い手も明らかに女の子なのだが…
「お、おう??なんでぃ、男みてぇな喋り方しやがるな!」
「それはお互い様だろ。んで?ここで何してたのかな、お燎ちゃんは。こっから先は王様のお城しかないんだけど」
笑顔のなかに、小さな緊張感。
けれど疲れた燎はそれに気づくことなく、
「あ、あのよ…っあ、あえ、あのっあの人に手紙を…あ、いや!!頼まれもんで!」
「は?あの人って…」
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