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「俺は、行くよ」
学校終わり、とりあえず私立入試が終わり、一息つきたくなるこの時期に僕と堅太は校庭にいた。
水曜日で部活が無く、誰も居ない校庭で二人、野球をしていると僕に背を向けながら堅太が呟いた。
「えっ?」
いきなり言われ何のことか分からない。
聞き返す僕に、堅太はいらだたし気に振り向いた。
「だから、甲子園だよ。俺、育英でスタメンに入って甲子園に行く。啓樹は憧れないのか?」
僕はまだ志望校が決まっていない。
もちろん、甲子園には憧れる。
でも僕には堅太みたいな野球センスがない。
「僕、野球下手だから」
堅太の目が一瞬、不満気に揺れた。
何でだよ、どうしてだよ、そう聞こえた気がした。
いたたまれなくなり目を伏せると、中学入学祝いにと二人お揃いで買った堅太のグローブが目に入った。
よく使い込まれており、所々破れたり汚れたりしている。
同じタイミングで使い始め汚れ方も、破れ方もほとんど同じ。
なのになぜ、使っている本人達の能力はこんなにも違うのだろう。
「俺が連れていってやるよ」
バットをいじりながら堅太が言った。
「俺がスタメンに入って啓樹を甲子園に連れていってやるよ。だから啓樹はスタンドで俺の活躍見てればいいんだよ」
堅太のバットを握る手に力が入ったのが分かった。
言葉の意味を尋ねる間も無く、堅太は僕に背を向け素振りを始めてしまった。
手持ちぶさたになり、何の気なしに足元に落ちていた硬球を拾う。
堅太が高校野球のためと買った硬球。
中学校生にはまだ馴染みの無いその硬球に、高校野球の熱気や、高校球児の人生が詰まっているような気がした。
「なぁ、何でそんなに僕を誘ってくれる?」
堅太の背中に問いかける。 てっきり答えは返って来ないと思っていたけど堅太は口を開いた。
でも、その答えは素振りのバットが空を切る音にかき消され僕までとどかなかった。
堅太の気まぐれかもしれない。
本当は答えなんて無いのかもしれない。
でも堅太の背中が、付いてこいと言っているような気がした。
僕にはそれで十分だった。
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