プロローグ

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存在を主張する高らかなギター。潜むように重々しいベース。楽器が織り成す波に乗り、軽快に紡がれるボーカル。 洋楽だ。バンド名は知らない。曲名は確認したが、既に忘れかけている。 「Overcome my Suffering!」 サビの始まりだ。訳せば「苦難に打ち勝て!」といったところだろうか。 これがタイトルだったはず、と言われたら、確かにそんな気がしないでもない。 さすがにないなと思いつつ、少年はポケットの中でプレーヤーを操り、少しだけ音量を下げた。イヤホンの音が半歩遠ざかった分、周囲の雑踏が近くなる。 雑踏、と表現したものの、周りの人間は多くない。朝も早い通学路には、自分と同じ服装の男女が数人、歩いているだけ。 と、黄色い声を上げる小学生の一団が、彼を追い抜いて駆けていく。 彼ら彼女らの、色とりどりのランドセルに。緑のラインが入った金属製のプレートを見て、 「……ふん」 彼は不機嫌そうに鼻を鳴らした。気づく者はいない。 ほとんど同時に踏み出した足の感触から、坂道に入ったことを察した彼は、ポケットに手を入れたまま前方を見上げる。
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