さようなら

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智梨は昼過ぎに落ち着きを取り戻した。それからはぼーっと、病室の窓から外を眺めた。 しっかりと、確かな記憶を思い出しながら。 「熱い日差し、包丁を持った女、三階建てのビルの屋上、私は復讐を誓い、女はさようならと言った」 「やめて、やめてよ!!」 女が迫る。私は後ずさる。 「久しぶりだね」 背中に冷たい何かが当たった。フェンスだった。 もう私は後ずさることが出来なかった。それでも女は近づく。包丁から逃れるために、私はフェンスに立った。 そして、私は飛び降りた。 「井村さん、昼食ですよ」 はっと現実に戻った智梨は、窓から目を離した。 「さっきはごめんなさい‥暴れちゃって」 「いいのよ、慣れてるから」 昼食時の会話は、そこで幕を閉じた。智梨は出された昼食に手をつけ、その間も記憶を手繰り寄せたが、見えてくるものは何もなかった。
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