3人が本棚に入れています
本棚に追加
現実に戻った智梨は、こう呟いた。
「夫を奪われた」
涙ぐんだ智梨が呟くと、看護婦は宥めるように彼女に言った。
「あなたに、配偶者はいないはずよ…」
「だから、奪われたのよ…山本亜季に、奪われたのよ」
看護婦はその言葉を耳にした時、思わず智梨から手を離した。その人物に、山本亜季の名に聞き覚えがあったのだ。
「山本亜季…あなた本当に」
「知ってるの?」
「ええ、先日…血だらけの状態でこの病院に運ばれたわ、彼女は‘復讐する,とだけ遺して亡くなった」
少し間が空いた。ぼーっと一点を見つめていた智梨の首が、急に看護婦のもとへ向けられた。
「私が殺した」
「じゃあ、なんであなたはここへ…」
智梨は全てを思い出した。自分が亜季を殺した後日、智梨は三回建てのビルの屋上にいた。自殺するつもりだったのだ。
でも、それは叶わなかった。そこに死んだはずの亜季がいたのだ。
彼女は言った。
「言ったでしょ?必ず復讐するって」
智梨はフェンスの上に立った。
そして、飛び降りたのだ。
最後、智梨が落ちる瞬間に声が聞こえた。
「さようなら」と…
最初のコメントを投稿しよう!