さようなら

7/8
前へ
/8ページ
次へ
現実に戻った智梨は、こう呟いた。 「夫を奪われた」 涙ぐんだ智梨が呟くと、看護婦は宥めるように彼女に言った。 「あなたに、配偶者はいないはずよ…」 「だから、奪われたのよ…山本亜季に、奪われたのよ」 看護婦はその言葉を耳にした時、思わず智梨から手を離した。その人物に、山本亜季の名に聞き覚えがあったのだ。 「山本亜季…あなた本当に」 「知ってるの?」 「ええ、先日…血だらけの状態でこの病院に運ばれたわ、彼女は‘復讐する,とだけ遺して亡くなった」 少し間が空いた。ぼーっと一点を見つめていた智梨の首が、急に看護婦のもとへ向けられた。 「私が殺した」 「じゃあ、なんであなたはここへ…」 智梨は全てを思い出した。自分が亜季を殺した後日、智梨は三回建てのビルの屋上にいた。自殺するつもりだったのだ。 でも、それは叶わなかった。そこに死んだはずの亜季がいたのだ。 彼女は言った。 「言ったでしょ?必ず復讐するって」 智梨はフェンスの上に立った。 そして、飛び降りたのだ。 最後、智梨が落ちる瞬間に声が聞こえた。 「さようなら」と…
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加