悪魔が来たりて兄増える

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それは日曜の朝4時。 榊原家次男の榊原翼に突然の非通知電話。 「……あい」 『あ、翼寝てた?』 睡眠を邪魔され、不機嫌な声色で枕の傍に置いてあったケータイを取る。 しかし、その眠気は一気に吹っ飛んだ。 「お、親父!?」 まだ太陽も昇っていないのか、窓の外も暗い。 「あーわるい。今そっちは朝か。時差計算してねーんだ。今日家に行くから、みんな揃って待ってろよー」 「……明日じゃなくて?」 「そこは計算した」 「………………」 アメリカと日本との時差は10時間以上。 相変わらず、他人を気遣うことを知らないクソ親父だ。 って、え? 「つか何でくんだ」 やっと覚醒してきた頭で思い至る。 約4年振りの父親からの電話。 嫌な予感しかしない。 「みんな揃って」このパターンは。 『聞いて驚け。家族が増えるぞ』 「あんたなあ!」 上半身を鬼気迫る勢いで起こす。怒りに目も冴えた。 兄弟たちが起きるかも、という心配も通り越して怒鳴る。 上機嫌な親父の声が、余計に神経を逆なでした。 『うるさいな。電話口で叫ぶなよ』 「ふざけんなよ!」 これで何度目だ、このろくでなしは。 榊原家は翼をいれて六人兄妹。 しかも双子を除いて全員腹違いという、父親の女癖の悪さがこれでもかというほど露呈した家族構成だ。 長男の壱也と末っ子の六花の年の差は22もある。 『まあまあ、落ち着けって。もう搭乗だから、またな』 「おい!」 文句を言おうにも、電話は切られて言葉は届かない。 こっのクソ親父! 「つばさ……朝からうるさい」 一人怒りに身もだえていると、二段ベッドの下から不機嫌な声がかかった。 あ、機嫌最悪だ。 他人から(特に女子)から見れば3秒目が合うと惚れるとかなんとか、妖怪じみた美貌をもつらしい弟。 毎日見ている兄弟にはよくわからないけれど。 「美咲、今日……」 「翼、何かあったの?」 「っせんだよ」 「…………?」 俺の台詞を遮るようにぞろぞろと、部屋に壱也、篤史、圭吾、と六花以外の兄弟達が入ってきた。 「クソ親父が家にくる」 半分寝ぼけていた兄弟たちの顔が、一気に青ざめた。 壱也に関しては、体までフリーズしている。 とてとてとて。 可愛らしい足音と共に六花が眠たそうに目を擦りながら部屋に入ってきた。 「お兄ちゃんたち、どうしたの?」 ギギギ、と音が鳴りそうなほどぎこちなく、壱也が六花に顔を向けた。 「…………悪魔がくる」
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