悪魔が来たりて兄増える

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空は快晴。窓辺には小鳥が囀り、ばなな(猫)は篤史の膝で丸くなっている。 そんな長閑な光景と、末娘の六花を除く兄弟たちの表情は極端に掛け離れたものだった。 電話の直後に始まった、緊急家族会議。 リビングのテーブルを囲んで重々しい空気を量産しながら死んだような顔をしている。 長男の壱也はいつもは27歳とは思えない落ち着いた雰囲気を纏っているのに、今はその柔和な顔を白っぽくしている。 その隣でテーブルに突っ伏している次男の翼は思い詰めるのにも疲れたのだろう。すでにぐったりだ。 そのまた隣の三男で大学生の美咲は額を右手の指で支えて幾度目かのため息をついた。母親譲りらしい美しい顔にアンニュイな色がさしている。 「おい、外せよ」 「外したらお前、逃げるだろう」 「………………」 「………………」 「………………」 「………………」 その横では高校一年で双子の篤史と圭吾が持久戦を繰り広げていた。 篤史が圭吾を逃がさないために、柱にビニールテープで縛り付けているのだ。 「DVだ」 「外で喧嘩ばっかしてる奴が何を言う」 「美咲は黙ってろ」 「じゃあずっとそうしてれば?」 「………………」 兄弟の中でもひときわ輝く金色の髪を寝癖のついたまま揺らしてそっぽを向く圭吾。 寝巻のスウェットとTシャツのままで身動きが取れなくなっているせいで、わりと間抜けな画だが。 「圭吾、俺だって逃げたいんだから」 「は?」 翼の珍しく弱腰な発言に圭吾が怪訝な声をあげた。 「あー、翼は逃げたよね」 単に呑気なのか、現実逃避なのか、壱也が懐かしそうに言う。 「そしたらあいつ、警視庁に連絡いれて、全国一斉捜索されたの」 「九州まで行ったんだっけ」 忌ま忌ましいとばかりに吐き捨てる翼の膝に六花が手をついて顔を覗き込む。 「おとうさんって、どんなひと?」 ほとんど日本人の外見なのに瞳だけ青い六花を、翼が胡坐をかいた膝に乗せて頭を撫でる。
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