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「大企業の社長様で愛人は数知れず。子供を作るのはいいが、育てる気はなく1、2歳になると使用人をおいた別荘に送り付ける血も涙もない男だよ」
「…………?」
小学校にも上がっていない六花には半分も伝わらない説明でお茶を濁す。
さすがに、こんな小さな頃から父親の最低さを知る必要はない。
「六花、朝ごはん作るから手伝って」
「はーい!」
思い出した様に美咲がキッチンへと向かう。
そういえば、朝食はまだだった。
クソ親父が帰ってくるだけで、この生活の乱れっぷり。
奴の金銭面での支援がないと六花や弟達の養育費が間に合わないこの状況が恨めしい。
「はあ……」
「着替えるか」
壱也が立ち上がり、篤史と翼もそれに続く。
「おい!解けよ!」
圭吾が縛り付けられたまま怒鳴る。
「おまえは反省してろ。また学校サボったろ。担任の先生から電話があったぞ」
「っそれとこれとは今関け……――」
ピンポーン。
突然チャイムが鳴った。
「……え?」
早くね?
いや、でもさっき飛行機に乗るからって。
じゃあ誰だ。
心の準備が!
早くこれを外せ!
兄弟全員で目配せする。
時刻は朝の4時半。
こんな非常識な人間、一人しか知らない。
「六花、鋏で圭吾のビニール紐切ってあげて」
「うん!」
美咲が六花を部屋の奥へやる。
六花以外の兄弟が冷や汗を流す。
ピンポーン。
二度目のチャイムに耐え切れなくなったのか、壱也が玄関に出る。
「どちら様で……」
「よう、壱也!元気だったか!」
「ぎゃー!!」
壱也の断末魔の叫び声にばなながフゥーッと毛を逆立てた。
「翼ー、美咲ー、篤史に圭吾!元気にやってるかー!」
「……死ねばいいのに」
美咲が低く呟いた。
その横をとてとてと六花が走っていく。
「あ、六花、ダメっ!」
声を上げたのは美咲だが、動いたのは全員で、圭吾までもが六花を追って玄関まで出てしまった。
そこにいたのは五十搦みの精悍な顔付きの男だった。
「おじさんがおとうさん?」
「お、この小さなお姫様は六花かな?」
「うん!」
「母さんに似て美人だなぁ」
そう言って六花を抱き上げた。
足元には壱也の屍が転がっている。
「りっかにお母さん、いるの?」
「そりゃあいるさ」
生きているかはともかくとして、な。
白々しい父親の態度に眉間にシワが寄る。
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