悪魔が来たりて兄増える

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「六花、こっちにおいで」 努めて明るくしようとした美咲の声が聞こえた。 「おとうさんおろして」 「はいはい」 ゆっくり下ろされた六花が美咲に駆け寄り、腰あたりに抱き着く。 「どうしたの?」 「あの人に近づいちゃいけないよ」 「?」 有無を言わせない声色に六花が首を傾げる。 「おいおい、ひどい言われようだなあ」 困ったように笑いながら改めて俺達を見回す。 「さっき搭乗したにしてはやけに早いんじゃないか?」 半ば吐き捨てるように聞く翼。 「ああ、驚かそうと思ってな。 それよりおまえたち、まだパジャマなのか?」 「っ今何時だと思ってるんだ!」 「んー、午前4時40分だな」 「……あー、くそっ本当に!」 翼がキレた。 六花と圭吾がぎょっとする。 壱也は依然ぐったりしていて、美咲は慣れた様子で六花の頭を撫でている。 篤史に至ってはいきり立つばななを宥めていたが。 「このクソ親父!用件済ましてさっさと消えろ!!」 「嫌われたもんだなぁ」 全然堪えてない風に笑う父親に嫌悪感が増す。 「あ、用件ね。楽網くん、入っておいで」 ドアを開けてそういうと小さく手招きする。 入っておいでってことはある程度育ったガキなのか。 そう思った直後に違和感を覚える。 ……楽網くん? 「おはよーございまーす」 入ってきたのは二十代前半くらいの若い男だった。 新しい家族ってまさか……。 「楽網零でっす」 「楽網くんは俺の命の恩人でね。住むところがないっていうから、家どうぞって」 にこやかに笑うクソ野郎。 とうとう子供以外もここに連れ込むらしい。 しかもホームレス。 「ここはあんたの家じゃない」 「名義は俺だから」 「………………」 翼の攻撃もさらりといなす。 つくづく憎らしい。 「あんたも出ていって……――」 矛先を楽網という男に代えようとしたところで、バッチリ目が合った。 「……何だよ」 「いやあ、昴の息子って聞いたからそれなりかとは思ってたけど、見事に男前ばっかだね」 「…………」 本当にしょうもない。 でも、親父を呼び捨てって。 本当に命の恩人なのだろうか。
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