悪魔が来たりて兄増える

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「お兄ちゃんが増えるの?」 横で六花が美咲に聞いている。 「そうだぞ六花、零お兄ちゃんだ」 美咲が否定する前に親父が口を挟む。 うわぁ、と声を上げて六花が楽網に駆け寄る。 「れいお兄ちゃん?」 「んー、何となく如何わしい気分になるから零でいいよ」 「れい?」 「うん」 ぽんぽんと六花の頭を撫でる楽網。 せっかく小綺麗な格好をしているのに、身の毛がよだつような発言のせいで台なしだ。 「はっはっは。相変わらずセンス冴えてるね、楽網くん」 玄関に寒々とした風が吹く。 親父と同じように、ジョークだと受け止められるほど兄弟たちの精神状態は良ろしくなかった。 「六花から離れろ、変態」 翼とは対照に、底冷えするような怒気を振り撒きながら六花を抱き上げる美咲。 ばななが震えて篤史の懐にへばり付いた。 「あー大丈夫大丈夫。俺、女に興味ないから」 それを意にも介さずへらっと笑う楽網零。 響く親父の呵々大笑。 やっと起き上がり掛けていた壱也がまたすっ転んだ。 「用件も済んだし、俺は帰るよ。バイバイ六花。じゃあね、楽網くん」 「おとうさん、もう帰っちゃうの?」 「ああ、ごめんな。また来るから」 「あんた、また放り出して消えるつもりか」 翼の口からは存外低い硬い声が出た。 六花がぎょっとしてこちらを振り返る。 「じゃあな、みんな」 聞こえなかったかの様に家から出て行こうとする親父。 「ちょっと待てあんた!!」 翼がつかみ掛かろうとしたのを、ドアの外で親父を待っていたのであろう、秘書の清水に阻まれる。 「翼さま、社長は忙しいので、またの機会に」 細身の体のどこにこんな力があるのか、がっちりと腕を捕まれる。 「じゃあな、翼」 「このっ!!」 どんなに手を伸ばしても父親には届かない。
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