一章・伝染ナルコレプシー『柳沢鳴子の物語』

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「だってほれ、鏡の世界に入り込めるということは、ゲームの世界に飛び込めるかもしれない。私もゲームの中で無双して可愛い女の子とイチャイチャしたい。廃神と崇められる私なら可能だろ。ギルドの連中は私のプレイヤースキルの高さ故に、私をおっさんだと思っている節があるがな。まあムキムキの男キャラを使っている私が原因でもあるのだが」 「それで? どういう能力だと思う?」 「イズミは時々、凄く冷たいと思う」  スルーした俺にネトゲ廃人はそう言った。だってネトゲの話になると長いんだもん、コイツ。  テンコは肩をあからさまに落としてからその場で膝を抱えて丸くなると、膝に顔を埋めるようにしながら横目で睨んでくる。  俺はため息をついてから黒目を天井に向けた。  テンコは割と直ぐに機嫌を損ねる。そしていじけると暫くは口さえも利いてくれないのだ。  言葉遣いと態度だけは偉そうだが、肉体的にも精神的にも子供なのだった。  普段なら放置推奨なのだが、この件はテンコの協力が必要不可欠なので俺は「あー……」と唸りながら作り笑いをみせるのだった。 「今度の休みの日に、かぼちゃプリンをどうにかして買ってくるからさ」 「本当に?」 「ああ、本当に」 「三個な!? それで許す」 「それで。どういう能力だと思いますでしょうか?」  あの件とテンコを除くと、他の曰く憑きを見た経験が俺にはない――というのは些か楽観的か。  俺は嘆息と共にテンコを見た。  曰く憑きは風土病。  言ってしまえば病気だ。インフルエンザウイルスが身体に不調をもたらすように、曰く憑きは異常をもたらす。  つまり外から見ただけでは判別するのは不可能に近い。  隣人が曰く憑きだったとしても俺はきっと気づかない。  その本人でさえも気づかないかもしれないのだから当然といえば当然なのだけども。 「ゲーム云々と言っておいてあれだが、イズミは鏡の中に入れると思うか?」 「どうだろうな。鏡は一応液体なんだろう? 出来るか出来ないかで言ったら出来るかもしれないとは思うけど」
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