一章・伝染ナルコレプシー『柳沢鳴子の物語』

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3/  翌日の放課後、級友と中庭で暫く談笑した後に別れて、一般棟から普通科棟の四階を目指していると渡り廊下で遠野の後ろ姿を発見した。  肩口で切り揃えられた黒髪が、足取りに合わせて揺れている。  部室の外で話し掛けるのも億劫なのでその背中に続いていると、彼女は唐突に立ち止まるなりホラー映画のようにゆっくりと後ろを見返り、俺の視線と遠野の視線が交錯した。気まずい。 「何だ。柳田か」 「柳田で悪かったな」  吐息を漏らしてから歩き始めてしまう辺り、俺と遠野の仲は鮫島が危惧するようなものではない。  部室の前に着いて遠野が鍵を開けている間も無言だ――ったのだが沈黙を破ったのは遠野だった。 「昨日から視線を感じるの。幽霊かな?」 「ストーカーじゃねぇの。鮫島とか鮫島とか鮫島とか」 「鮫島は今日欠席」 「フム」  正直な話、鮫島は緩衝材のような人材なので彼がいないと暗鬱な気分になって来る。  遠野と二人きりの空間は息苦しいことこの上ないのだ。 「あれ」  無意識に口を衝いた言葉なのか、遠野はひとりで小首を傾げている。  黙っていても理由を説明してくれそうにないので水を向ける。 「どうした?」 「鍵を掛け忘れていたみたい」  再度鍵を回して扉をスライドさせた遠野の長身に遮られて、部屋の様子は窺えない。 「――ん?」  遠野は部室に入るなり、何かを見つけたのかまたも小さな疑問の声をこぼした。 「今度はなに?」  遠野が部屋の中央に置かれた長机の前で屈む。  濃紺のスカートの中が見えないように注意を払った所作に、俺は唇を歪めた。 「鮫島からの手紙」  部屋の中央に鎮座する机の上に、書き置きがあったらしい。 「そうか。ついに嫌気が差してこの部活ともおさらばってことだな」  連日毒を浴び続ければ正常な人間も壊れてしまう。  この近辺には教会も道具屋もないからな。日々HPが削られてゆくわけだ。
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