一章・伝染ナルコレプシー『柳沢鳴子の物語』

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4/  大見得を切ったのはいいのだけれども、手掛かりと呼べるような情報は結局掴むことができず、悪足掻きとばかりに部活で残っていた生徒に聞き込みをしてみたものの、鮫島の行き先も鏡の世界とやらの詳細もわからずじまいだった。  そんな中で唯一の収穫といえば級友の紹介で他校の女子生徒に話を聞けたことくらいか。  電話番号とアドレスもゲットできた! 他意はない。本当だ。やめろ、そんな目で俺を見るな。 「じー」  一通り説明を終えた俺に注がれる訝しがるテンコの視線。  それでもあまり雑談をしている時間はあまりない。ベッドの上で正座をしていたテンコは手折れそうなくらいに細い指で「ていっ」と俺にデコピンを浴びせるに留めた。 「それで? そのビッチはなんと言っていた?」 「ビッチではないけどな。清楚系だった。いい匂いだった」 「阿呆。女子高生は皆、クソビッチだぞ」  女子高生にどんな恨みがあるんだよ。   「……まああれだよ。遠野の言う通りだったよ。そんな噂は聞いたこともないって」  もちろん彼女が耳にしたことがないだけかもしれないし、他の学校の人間ならどうなのかという点はわからないが、遠野の意見を参考に動いてみるのも悪くないと思わせるだけの証言であったことは確かだった。 「鮫島とやらは?」  俺は首を横に振る。電話は繋がらず、メールも返ってこない。  自宅にも電話を掛けたが鮫島は昨日から帰っていないという。 「いつものことだけど、って鮫島ママは言ってたけど」  鮫島は友人の多い人間だ。泊まり歩くこともままあるのだという話はしていた。 「遊んでるだけなのかもしれないけどさ……」  俺は時計を一瞥する。  まだ二十時を回ったばかりで、帰宅していなくても別段不思議な話ではない。  毎日夕ご飯前に帰って来る俺が律儀するだけだなのだ。 「でも違うかもしれない」  テンコに俺は頷いた。 「しっかし、不可解だな。遠野チャンは」 「どういう意味?」 「イズミの話を聞いていると遠野チャンは曰く憑きに危機感を覚えているようにみえる」 「あー、うん。そういう節はあるかな」  一年近い付き合いになるが、遠野を理解するのは難しい。  単にオカルト好きが高じて妄想を膨らませた結果なのかもしれないが、偶然だと聞き流せる程俺は鈍感ではない。
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