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「―――さま、政宗様!」
「…Ah?」
聞こえてくる声に、ぼんやりと目を開ける。
はっきりしない頭を二・三度振って、無理矢理意識を覚醒させた。
「…なんだ、小十郎か」
「なんだ、とは何ですか。今日は始業式でしょう?遅れては、また竹中に嫌味を言われますよ」
「あー…OK、すぐに支度する」
何気なく零れた言葉。
夢を見ていたからか、尚更虚しく響いたソレに思わず自嘲しそうになる。
そんな俺を見兼ねてか支度を急かす小十郎に、気のない返事を返した。
「…始業式、か」
あの日、アイツを俺が殺して。
それでも笑顔を絶やさなかったアイツが最後に言った言葉は今でも忘れていない。
アイツは確かに、俺を嫌いじゃなかったと、そう言った。
「…ちっ」
頭をガシガシと掻き、クローゼットの中から見慣れた制服を取り出す。
スラックスに足を通し、ワイシャツのボタンをとめる。
この一年で手慣れた動作。
「政宗様!朝食が冷めてしまいますよ!」
「It understands(分かってる)!!」
一階から響いてくる小十郎の叫びに俺も叫び返す。
机の横に出しっぱなしのschool bag(スクールバッグ)にケータイと財布を突っ込んで、階段を駆け降りる。
「Hey小十郎!今日のbreakfast(朝食)は?」
「本日は焼き魚とほうれん草のおひたしにございます」
「げ、spinach(ほうれん草)かよ…」
「残さず、食べてくださいね?」
にっこりと、眩しいばかりの笑みを浮かべてほうれん草を差し出す小十郎に、俺は引きつった笑みを返すしかなかった。
―――――――――――
「くぁ…」
「あれ、竜の旦那。珍しいねー、一人なんて」
「…ああ、猿か」
「ちょ、違うから!猿じゃなくて猿飛だから!?」
今日は歩く気分だと小十郎を説得して、通学路を歩いてみる。
欠伸を噛み殺しながら足を進めていれば、後ろから猿が走ってきた。
コイツは反応が面白い。
こんな会話も、あの時代ではしたことがなかったな。
こんな会話が出来るのも、あの頃の記憶を持っているのが俺だけだから。
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