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「王様、すっごく怒ってたね。」
あたしがライの胸の中で呟くと、ライが小さく笑った。
「ああ。」
笑い事じゃないでしょ。あたし、死ぬかと思ったんだから。
「父上があんなに怒ったのは久しぶりだ。」
ライはなんだか嬉しそうだった。
「あたしたちのこと、人間界に追いかけてきたりはしないの?」
「それはないな。父上は魔界の王。常にその強大な魔力で魔界を守っていなければならない。しかも、父上くらいの年になると、いちいち人間界に降りて人間の血を吸わなくても生き永らえることができる。」
そうなんだ…
「じゃあ、グレンっていう猛獣は?」
「人間界に降りられるのは魔力の強いヴァンパイアだけだ。」
よかったあ。
あんな怖い猛獣が追いかけてきたら、寿命縮まっちゃうよ。
でも、ライはこれからどうするんだろう?
王様、あの調子じゃあ絶対許してくれそうにない。
あたしは顔を上げて、ライの紅く透き通る瞳を見つめた。
「なに情けない顔してる。」
「ライ、また魔界に行くの?」
あたしの問いかけに、ライは少し間を置いて答えた。
「しばらく人間界にいる。こちらの世界もなかなか居心地がいいからな。」
よかった。
ライが側にいてくれる。
そう思っただけであたしは安心した。
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