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あたしの心の中で、黒い塊が静かに頭をもたげた気がした。
「ライってば、あんなにかわいい幼なじみの子がいるのに、もったいないじゃん。」
あれ?
あたし何言ってるんだろう?
「アクアちゃん、ライのこと愛してるって言ってたよ。よかったね。」
口をつくのは、心とは正反対の言葉。
「それなのに、あたしを選ぶなんておかしいよ。ライのお父さんもアクアちゃんのお父さんも公認の仲なんでしょ?」
笑顔は偽物。
「あたしなんかじゃなくて、アクアちゃんの方がライにお似合いだよ。」
涙なんて…流さない。
あたしはベッドを降り、部屋を出ていこうとした。
瞬間。
「菜乃香。」
手首を捕まれた。
強引に引っ張られ、ライの整った顔が真正面にくる。
見られたくない。
今、あたし、すごく嫌な顔してる。
瞬間的に目を反らした。
だけど。
「こっちを見ろ。」
って、今度は顎を捕まれた。
深紅の瞳。
あたしは何度、この目を綺麗だと思っただろう。
「妬いてるのか?」
ライに言い当てられて、顔が熱くなった。
「べつに…妬いてなんか…」
「じゃあなんで顔が真っ赤なんだ?」
くすくすと優しく微笑むライがいた。
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