金色は危険信号

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夏目先輩…どうして。 先輩は、あたしと目を合わせると、小さく手招きした。 え… 心臓がドクドク動き出す。 「菜乃香のこと、呼んでるみたいだね。」 みーちゃんが深刻そうな声で呟く。 あたしは無言のまま席を立った。 落ち着け、あたし。 あの日のことがよみがえる。 怖い。 でも、先輩の目を見て、その怖いという感情は一瞬にして消えた。 先輩は、気まずそうな、そしてちょっと困ったような複雑な表情を浮かべながらあたしを待っていた。 「ごめん、急に呼んで。」 「いえ、大丈夫です…」 「ちょっと来てもらえるかな。」 なに…? あたしは、教室から少し離れた階段下に連れていかれた。 教室の前より少しだけ、人通りが少ない。 「あの、先輩…」 「菜乃香ちゃん、ごめん。」 え… 先輩はそう言ってあたしに頭を下げた。 「あの日、傷つけてごめん。許してくれなんて言わないけど、どうしても謝りたくて。」 …… やっぱり、夏目先輩は優しい人だった。 人は心を持ってる。 傷つくことだってある。 人の手で傷ついた心は、人の手でしか治せない。 先輩も悩んでたのかな。 あたしのこと考えてくれたのかな。 先輩、謝りに来てくれてありがとう。
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