真夏の夜の×××

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「俺は、空を飛ぶのが好きだ。」 ぽつりとライは呟いた。 「空を飛んで、こうやって下を見降ろすと、何もかもが小さく見えるだろう。あの光一つ一つのもとには、生き物がいる。この世界では人間が一人一人いる。俺もお前も、あの中の一つ一つなんだ。」 一つ一つ? 「俺は、魔界で最上位に君臨するブラスト家に生まれたヴァンパイア。けれど、そんな余計なもの剥ぎ取れば、この世に生を受けた、単なる一つの生き物にすぎない。」 ライの言葉。 それは、あたしが孤児院の頃によく見た夢を思い出させた。 今でもたまに見る、あの悲しい夢。 本当の両親があたしを捨てたのは事実。 だけど。 あたしはあたしだ。 この世に生を受けた一人の人間だ。 「菜乃香が菜乃香であるように、俺は俺だ。」 ライ…。 あたし、何を泣いていたんだろう。 「ライがヴァンパイアじゃなくて人間だったらよかったのに」なんて考えて、どうして悩んだりしてたんだろう。 ライがヴァンパイアであっても、仮に人間であっても、ライはライなんだ。 あたしは、そんなライ自身を好きになったんだ。 自分勝手で、気まぐれで、その上とっても意地悪で。 だけど優しくてかっこいいライが、あたしは大好きなんだ。
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