―序章―6/7[mon]pm11:53

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【6月8日(火)午前7時3分】 いつもより早く目が覚めた智久は、洗面所で顔を洗い、ふぅと息を吐いた。 差し込んだ朝日で、白銀に照らされているキッチンに向かう。朝食と1通の手紙が、テーブルの上に置かれていた。 朝食は、パンとスクランブルエッグとサラダ。 置き手紙の内容はこうだ。 【母より。大切な会議があるので帰りは遅くなります。御飯はちゃんと食べるのよ】 手紙の下には、千円札が3枚置かれていた。昼食と晩御飯はこれで食べろ、ということか。 母親は、智久が中学生になった頃から、晩御飯用にと家にお金を置いていくことが多くなった。父親も仕事で、普段は帰りが遅かった。 【大切な会議があるので帰りは遅くなります】 これまでに、このメッセージを何度見たことか。同じ内容を毎回書くのが面倒だろうから、板に油性ペンで書けばいいのに、と思ったこともあった。いっそのこと、机に直接書いてもかまわない。 中学時代、部活から疲れて帰って来た智久が目にするのは、父親や母親の姿ではなかった。
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