864人が本棚に入れています
本棚に追加
【6月8日(火)午前7時3分】
いつもより早く目が覚めた智久は、洗面所で顔を洗い、ふぅと息を吐いた。
差し込んだ朝日で、白銀に照らされているキッチンに向かう。朝食と1通の手紙が、テーブルの上に置かれていた。
朝食は、パンとスクランブルエッグとサラダ。
置き手紙の内容はこうだ。
【母より。大切な会議があるので帰りは遅くなります。御飯はちゃんと食べるのよ】
手紙の下には、千円札が3枚置かれていた。昼食と晩御飯はこれで食べろ、ということか。
母親は、智久が中学生になった頃から、晩御飯用にと家にお金を置いていくことが多くなった。父親も仕事で、普段は帰りが遅かった。
【大切な会議があるので帰りは遅くなります】
これまでに、このメッセージを何度見たことか。同じ内容を毎回書くのが面倒だろうから、板に油性ペンで書けばいいのに、と思ったこともあった。いっそのこと、机に直接書いてもかまわない。 中学時代、部活から疲れて帰って来た智久が目にするのは、父親や母親の姿ではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!