―序章―6/7[mon]pm11:53

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ましてや、温かい晩御飯や「お帰りなさい」という言葉は皆無に等しかった。 目にするのは、テーブルの上に無造作に置かれた――長方形の紙に描かれ、冷たい表情で、決して微笑むことのない奴らだった。「お帰りなさい」などとは絶対に言わない、お金という奴ら。 そいつらのほうがいい、という人も、世の中にはいるのだろう。学校の友達からは羨ましがられたこともあった。でも、智久は嫌だった。部活から帰ってきて出迎えてくれるのは、温かみのある優しい表情がよかった。 智久は窓を開けてベランダに出ると、3枚の千円札を放り投げた。 「何もかも金で済ますつもりかよ」 ひらひらと宙を舞う、3枚の紙っぺら。 父親の葬式の最中、母親はこう言った。 「殺されれたのが智久でなくてよかった」 智久はこの言葉を許すことができなかった。 「父さんならよかったのかよ」 智久は葬式の最中にもかかわらず、大声で怒鳴った。 母親の気持ちは、理解することができた。智久と父親をくらべたら、殺されたのは父親でよかった――そういう意味で言ったのだろう。
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