―序章―6/7[mon]pm11:53

14/17
前へ
/93ページ
次へ
それは分かっていた。でも、いくらそう思ったからって、お葬式の真っ最中に口に出さなくてもいいだろう。だから怒鳴った。 それ以来、母親とはなんとなく疎遠になっている。「お母さん」と呼ばなくなった。 智久は、宙を舞っている千円札を見た。 手を伸ばしても、もう届かない場所をひらひらと舞っている。自分から逃げるようにして、遠ざかっていく――。 「もう二度と帰ってこない……父さんも」 智久は地上のほうに目をやった。その瞬間、驚いて目を見開いた。 国道2号線が大渋滞している。いつも混んではいるが、今日の車の量は比較にならない。さらに遠くのほうに目をやる。周辺の道路も込み合っていて、クラクションもけたたましく鳴り響いている。 マンションのベランダから見た広島市内は、なんとなく騒然としていた。 智久は、ベランダから身を乗り出して上を見た。上空には、バタバタという轟音とともにヘリコプターが飛んでいる。 「おいおい、まさか本気で岡山に向かってるんじゃないだろうな!?ヘリまで飛んでるし――信じられねぇよ」 テレビ局のヘリが飛んでいるということは、何かしらのニュースが放送されているはずだ。智久は部屋に入り、急いでテレビをつけた。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

864人が本棚に入れています
本棚に追加