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それは分かっていた。でも、いくらそう思ったからって、お葬式の真っ最中に口に出さなくてもいいだろう。だから怒鳴った。
それ以来、母親とはなんとなく疎遠になっている。「お母さん」と呼ばなくなった。
智久は、宙を舞っている千円札を見た。
手を伸ばしても、もう届かない場所をひらひらと舞っている。自分から逃げるようにして、遠ざかっていく――。
「もう二度と帰ってこない……父さんも」
智久は地上のほうに目をやった。その瞬間、驚いて目を見開いた。
国道2号線が大渋滞している。いつも混んではいるが、今日の車の量は比較にならない。さらに遠くのほうに目をやる。周辺の道路も込み合っていて、クラクションもけたたましく鳴り響いている。
マンションのベランダから見た広島市内は、なんとなく騒然としていた。 智久は、ベランダから身を乗り出して上を見た。上空には、バタバタという轟音とともにヘリコプターが飛んでいる。
「おいおい、まさか本気で岡山に向かってるんじゃないだろうな!?ヘリまで飛んでるし――信じられねぇよ」
テレビ局のヘリが飛んでいるということは、何かしらのニュースが放送されているはずだ。智久は部屋に入り、急いでテレビをつけた。
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