第一章命令①

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「冗談だろ」と発表を本気にとらずに聞き流す人や、半信半疑な人たちがいたのも確かだ。 ――携帯を持っていない高校生はどうなる?家にテレビがない家庭の高校生はどうなる? ――携帯やテレビは、命令を伝えるためだけの媒体でしかないのか? 一番の気がかりは、命令に従わずに移動しなかった場合はどうなるか、だった。 先ほどの記者会見では、それに関しては伝えなかった。いや、伝えられなかったのだ。 政府のなかでも、ほんの一握りの人間のみが掴んでいた情報を――従わなかった場合゛死゛という罰が与えられる可能性がある、とは。 それを発表すれば、かつてない混乱、秩序の乱れと暴動が起こるのは必至だった。しかし公表しないままでいれば、移動しない人たちが現れ、結果的に多くの被害が出る。 先ほどの官房長官の発表は、苦肉の策だった。 現段階では、分からないことが多すぎるのだ。 日本に住め高校生全員とあるということは、海外に逃げれば大丈夫なのか?逆に日本に住む外国人や在日の人たちはどうなる?戸籍上は亡くなったことにしたら大丈夫なのか? ――途中棄権は認められません。 この言葉の意味するものは? 情勢を見て対応していく――それしかなかった。 しかし、政府の対応は非情なものだった。多くの者を守るために多少の犠牲は仕方ない。余計なことを言えば、責任問題になる――。 日本中が不安を抱えているなか、自らの意思で移動できない、広島少年院に収容されている少年少女たちは、護送車に乗せられて岡山県に移動した。 滅亡が示す先は――人類の存亡を賭けた命令が、始まった。
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