第一章命令①

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静かな自宅。人と触れる機会の少ない、変化のない時間。そのせいでより一層孤独感と寂しさは増し、幸い過去を思い出した、苦悩はどんどん深くなる。 部屋に引きこもっていても、何の解決にもならない。学校に行ってみんなと触れ合い、気を紛らわすことが一番の治療法だということも、少なからず分かっていた。 それなのに、学校へ行くことができなかった。 なぜだろうか? ――みんなが眩しすぎるからだった。幸せに満ちた表情が眩しい。悩みがなく、心が満たされている仲間たちが羨ましい。 だから智久は、真夏の太陽の下でサングラスをかけるかのように、一人部屋に閉じこもった。 誰にでも悩みはある。それを内に秘めるか、外に出すかの違いだ。悩みがない人なんて、いない。恋愛、学業、対人関係など、人は何かしらの悩みを抱えている。 仲間の励ましの声が同情に聞こえる――これが、智久が学校に行けない一番の理由なのかもしれなかった。 ――自分の気持ちなんて、誰も分かりはしない。だって、誰もたいせつな人を失ったことがないのだから。
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