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「細かいことは気にすんなや!いつからそんなちまちました性格になったんだ――おぉ、いつ来ても、ここからの眺めはスゲェな。市内が一望できらぁ」
修一は全面窓を開いた。
友香は冷蔵庫の扉を開けて、「あっ、これがいい」と言いながらフルーツジュースを取り出している。既に3つのグラスがテーブルに並べられていた。
まるで、自分の家にいるかのように振る舞う2人。
――いつもとは……違う。
普段なら、2人とも両親がいなくても、ちゃんと「お邪魔します」と言って、礼儀正しく緊張した様子で家に入ってくる。智久の部屋に入れば――そこでは、さわぎ放題だけど。
2人は無理に明るく振る舞っている、と智久は感じた。学校で会うときと似ている。
「何しに来たんだ?」
振り向いた修一の顔はいつになく真剣だった。全開になっている全面窓の前で、大きな空を背にした修一は、じっと智久の目を見つめた。
「俺、大切な人を失ったことがないから、智久の気持ちは分からない。分かろうと、努力した――けど、分からなかった。だって、実際に大切な人を失ったことがないから。俺は智久に、以前のお前に戻って欲しい。あの事件を忘れろとは言わない。でも、お前のお父さんは智久のそんな姿を決して望んでいないと思う。俺も友香もそうだ。
俺はお前に同情なんてしない。だって、お前は同情されんの、嫌いだから。まぁ俺が同情するような奴じゃないってことが、一番の理由なんだけど。智久だって、以前の自分に戻りたいだろ?
戻ろうぜ、智久……そろそろいいだろ?殻にこもるのは……全部、全部な、そこでジュースを注ぎながら泣いている友香からのメッセージだ。もう一度言う。俺からじゃないからな、友香からのメッセージだからな」
泣きじゃくる友香が注いだフルーツジュースは、すでにグラスから零れていた。でも、友香は気づかずに注いでいる。
智久は2人を見て言った。
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