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友香は、智久に何かしらの言葉を求めているようだ。柔らかく澄んだ目で智久を見つめている。
智久は顔を真っ赤にして頭をぽりぽりと掻くだけで、何も言わなかった。恥ずかしくて、素直になれない。
友香はつま先立ちをして、智久の顔に自分の顔を近づけた。そして、何も言わずに智久の唇に自分の唇を重ね合わせた。
智久は、言葉では自分の気持ちを伝えることができなかった。けれど友香を力強く、そして優しく抱きしめた。ありがとう、心配かけて悪かった、という想いを込めて。
悲しみでは悲しみをぬぐい去れない。失恋を忘れるために必要なのが、新しい恋であるのと同じに。殻から抜け出して一歩を踏み出そう。あてのない暗闇から、自分をもう一度探しだそう。
智久は囁いた。
「お腹空いたな。ご飯食べたら、岡山に行こうか」
「うん!」
――さて、次はあのバカだ。
智久はトイレの前に立つと、つま先でドアを蹴った。
「修一、長い長いトイレは終わったか?なげぇし臭いんだよ!」
「待て!自分の名誉のために言うが、実は、俺はウンコはしてない――耳をドアに当てていたが、お前たちの会話は一切聞こえなかった。解決したのか?解決してなければ、ウンコはしてないが、俺はウンコを続けなければならないのだ。トイレに引きこもる」
意味不明なことを!「早く出てこい」と智久はトイレの電気を消した。
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