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【6月8日(火)午後4時3分】
久しぶりに制服に袖を通した智久は、多少の違和感と懐かしさを覚えた。
゛岡山県に行こう!゛
深呼吸をし、無理矢理意気を高揚させる。しかしこのとき、智久のなかで岡山県に行くことは2人に付き合う、くらいの感覚でしかなかった。「遊びにいこう」という誘いに対して、「あぁ、分かった」と答える程度だ。
マンションのエントランスを出たところに、ママチャリと、ピンク色の小さな自転車が停められている。修一と友香のだ。
ともひさは、自転車を学校に置きっ放しにしていた。父親の死を聞き、高校からタクシーで病院に駆けつけて以来、ずっとだ。
智久は、修一と友香、どっちの自転車に2人乗りをしようか迷った。自転車の前で立ち止まっている智久に気づいた修一が、ちらっと目線を送ってきた。
――友香のに乗れ。
智久は頷くと、友香の自転車に跨がった。
「俺が漕ぐから、友香は後ろに座れよ」
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