第一章命令①

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友香は、ひらひらしているスカートを太股の下で束ね、後ろの荷台に横座りになった。智久の背中に両腕を回し、頬を背中に押しつける。 「広島駅まで安全運転でお願いします、運転手さん」 「了解!」 3人は広島駅に向かった。 周囲の光景は異様だった。道路が以上なくらいに混んでいる。脇道から、ちらっと見えた国道2号線も、大渋滞だ。 けたたましく鳴り響いているクラクションとサイレン。政府が、『国道2号線は一般車両は通行禁止。通行可能な車は、高校生を乗せた車両だけ』と発表したはずなのに――。 悲惨な人身事故があった山陽新幹線の広島駅では、事情が事情なだけに、バラバラになった遺体を素早く回収し、車体や線路に付いた血を水で洗い流すと、すぐに運転を再開させようとした。 しかし、世論がそれを許さなかった。事故の様子が、テレビを通して全国で生放送されたことが大きく関係していた。 ――5名の若く尊い命が奪われたのに、すぐに新幹線を走らせるとはどういうことだ!?広島から岡山に移動させる理由も理由だ。あんな馬鹿げたゲームを本気にしているのか!? ――政府は何を考えている!新幹線は走らせるな。あんな悲惨な事故を起こしておいて、すぐに運転を再開するなど、言語道断だ。悲しみを知らない、非人道的な行為だ。
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