第一章命令①

25/66
前へ
/93ページ
次へ
智久と友香は大きなため息を漏らした。 修一は、本気なのか?目を見る限りでは、冗談ではないようだ。つまり、本気だ。 普通、免許証に載っている写真は真面目な顔をしている。けれど、免許証のなかの修一は無邪気に笑っていた。免許が取れたことが、よほど嬉しかったのだろうか。 「車と原付は違うだろ!」智久は免許証を取り上げた。 玩具を取り上げられた子供のように、口をぷくっと膨らませて睨み返してくる修一。 「だって、一度でいいから高級車を運転してみたかったんだもん」 ――だもんとか、お前は何歳だ?アホに付き合うと疲れる。 こんな性格だから、修一を毛嫌いする人も多い。好き嫌いがはっきりと分かれるタイプだ。でも、智久は修一のことが大好きだった。無邪気で、今を存分に楽しみ、後悔はしたくない、自由に生きたいと、体全体で素直に表現する、修一のことが。 何よりも、一緒にいて退屈しない。 免許証の写真を撮ったときも、「笑っているから撮り直し」と何度も係員に言われたのだが、修一は「笑ったのがいい」と、子供のようにせがんだという。さっき、自慢気に免許証を2人に見せびらかしたときの修一の笑顔は、免許証の写真と同じだった。 智久は、母親が子供を叱るように言った。 「車は諦めろ!原付免許で車を運転するバカが、どこにいる」
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

868人が本棚に入れています
本棚に追加