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「直人は、ホームの下に落ちた生徒を助けようとして――新幹線に轢かれて亡くなりました。この荷物は、息子に届けるものではありません。私は、息子の行動を誇りに思います。しかし母親としては……寂しい」
そして一人、声を張り上げて泣いた。
彼女は、あの中継を台所のテレビで見ていた。テレビに向かって手を差し出し、「直人、逃げて」と悲鳴を上げた。けれど……結局、息子は新幹線に轢かれた。
あの光景はいまだに目に焼き付いている。二度と忘れないだろう。
――危険にさらされている人を救助しようとして、自分が死ぬ。これは誇れる死ですか?それとも、無駄死にですか?
誇れる死だと、彼女は何度も言い聞かせた。そうでもしないと、息子の死が受け入れられなかった。
――智久君、あなたはお母さんを悲しませないであげて。親にとって、子供というのは何よりも大切なもの。宝物です。たとえ名誉ある死でも、勇敢な行動だったと世間が褒め称える死でも
――親はそれを望まない。たとえ、自分の息子が、命に代えて世界を救ったとしても。
世界中の人たちの命と、自分の息子の命が天誅にかけられたら……親は、きっと自分の息子の命を選ぶはず。
「親とはそういうものです――私は複雑な心境です」
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