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僕が彼女を初めて見たのは
小学5年の時。
あれは確か、酷い雨の日だった。
「寒い……」
幼い僕は
毎日見ている天気予報を
珍しく確認せずに
学校へ登校してしまった。
残念なことに、
その日は100%で
大雨警報が発令されるほどだった。
母さんは運転免許を持っているが、
その時は丁度仕事の時間で
呼べなかった。
しかも、
僕は校区外からの通学で
同じ方向に帰る友達もいなかった。
「どうしよう……」
学校の昇降口で
皆が仲良く下校した後
一人でてをこまねいていた。
冬の冷たい雨は
小さい僕の体温を奪ってゆく。
鼻をすすって
マフラーに顔を埋めた。
雨足はどんどん酷くなる。
覚悟を決めてランドセルを
頭上に乗せ、
足を一歩踏み出そうと浮かせる。
と、その時。
「帰れないの?」
振り返ってみると、
たくさんの重ね着をしている
同い年ぐらいの女の子がいた。
彼女の手には
一本の赤い傘があった。
僕の返事を待たずに
彼女は歩み寄る。
「一緒に帰ろ」
そういって、
赤い傘をひろげたのだった。
これが僕と彼女の出会い。
アッサリしていて
唐突な出会い。
あの後から
僕は彼女に興味が沸いて、
学校では時々話をするように
なったのだ。
そして
僕は彼女の人間性を知った。
微熱ほどの温もりで
優しく人を包んでくれる
彼女の心。
そんな彼女に僕は恋をしたのだ。
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