バイト帰り

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今日は私の誕生日。 だけれど、 誰も祝ってくれるはずがない。 だって 私には友達なんていないし、 家族すらもいないわけで。 今はバイトと 『彼』との夜のお供で暮らしている。 そんな私の今日この頃。 バイトが終わってからの帰り道。 漆黒の制服は闇夜に 溶け込んでいた。 私の白銀の髪が 街頭に照らされて 異様な明るさを放つ。 時間ピッタリに仕事を 切り上げて 『彼』との仕事のほうに急ぐ。 「ねぇ、君」 よくわからなかったが 取りあえず振り返ると、 そこには彼の姿があった。 人間不信な私が 少しだけ信頼してもいいかな、 と初めて思えた人物。 だけれど、 私は彼が学校で隣の席の女子を 無視したことで、 募り積もった信頼の塵をはらった。 信頼はすぐに 消えてしまうものなのよ。 「あ、こんにちわ」 「こんにちわって……もう夜だよ」 10月の冷たい風が宙を漂い、 空に浮かぶ月は 心なしか夏よりも白く見えた。 確かに、もう昼ではない。 「そうですね」 彼は苦笑して 私の隣に入ってきた。 この感じ。 私は彼のこんな難しいことを 難なくやって見せることに 安心感を覚え、 信頼しようと思ったのだ。 「相変わらず、ひんやりしてるね」 案外、 優しそうな顔に似合わず 率直な意見を飛ばしてくるところ にも信頼感を感じたのだ。 彼と私は歩調をそろえて歩く。 ネオン瞬く夜に 星は一つとして確認することは できない。 時は私たちが口を開かずとも 過ぎてゆく。 バイト先から駅まで向かう期間。 大分人通りが多くなってきた。 一体、この人は私に何の用なの。 不思議に思いつつも 私は歩みを止めることはない。 だって 早くしないと お供の仕事が残っているのだから。
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