バイト帰り

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駅前まで彼は 終始無言のままついてきた。 サラリーマンの大群が 地下鉄へと流れ込む手前、 私はくるりと彼に向き直った。 「すみません。 私はこれから用があるので」 きっぱりと言い捨てて踵を返す。 「待って!」 またあの声で 私は髪を引かれて振り返る。 溜息がどことなく漏れてきた。 「何ですか」 振り返って先にいた彼は 先ほどとは打って変わり、 縮こまっていて 怯えたウサギのようだった。 しかし それは彼の長身には似合わない 表現だ。 「今日……誕生日だったでしょ。 はい、これ」 差し出されたのは 小さな赤い包みだった。 「……もらえない」 私は革の手袋をつけた左手を 横に振った。 「どうして……」 彼は寂しそうに顔を曇らせた。 駅の中からの光が私たちを照らす。 「私、もらい物はダメ、 と言われているの」 「誰に?」 彼は静かに尋ねてきた。 あえて静かに、探るように。 「それは言えない」 彼は口をつぐんでしまった。 私がこれだけ拒否したのだ。 そこまで 押し付けるものではないだろう。 と、思っていた矢先。 「頼むから、受け取ってくれ」 何故か とても辛そうな声に 聞こえてしまった。 頭を垂れてまで 私に受け取ってほしいのか。 でも 「無理だ。『彼』に怒られてしまう」 それでも彼は折れることなく、 頭をあげた。 すると 突然、目を見開いて 何か思いついた様子で 顎に手を当てて考え始めた。 そしてこう言った。 「それはもらいものじゃなく、 君が拾ったんだ。 要は拾い物。 『もらいもの』じゃないよ」 ……理屈がズレているような 気がしなくもないが 『もらいもの』でなければ良いか。
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