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「おーい。大丈夫ですか」
反応は何一つ変えてこない。
「おーい。大丈夫?」
私が口調を変えても返ってこない。
私は二歩前に踏み出し、
ちょっと背伸びをして
高いところにある彼の頭に
チョップを入れた。
「いって」
「ごめんなさい。
私、手加減を知らないから」
彼は苦笑しながら
頭をさすりつつ、
私から視線をずらさない。
「……誰?」
その問いには、
先ほど答えたはずなのだが
彼には分らなくて当然か。
「無理。答えられない」
むっとしたように彼は
むっと口をへの字に結び
顔をこわばらせた。
長身のためか、
その迫力は大きい。
「あと、これ」
青い十字架のピアスが
私の掌で
ネオンの光で瞬く。
「やっぱり、
ダメだそうで」
私が包みにそれを戻している間
彼はずっと
見下すように凝視していた。
ぐっ……。
包みにピアスを入れ終えた
私の手を
野球にのめりこんでいる少年の
手がきつくつかんだ。
彼の手だった。
彼はピッチャーだ。
球を何十球も何百球も投げている
その手の皮が厚いのは
彼の努力の証だ。
私はそれを知っている。
知っているんだ。
「それは受け取って。
俺のメンツがないよ」
白い歯を見せて
よくみせる表情で笑った。
ここまで言われた上に
先ほどの押し。
もう流石に断りきれない。
私は振り返り『彼』に承諾を
得ることにした。
視線で尋ねると
「つけちゃいけませんよ」
彼は微笑んだ。
「それじゃあ、もらうだけですけど」
「あぁ」
彼の妙に悲しそうな声が
冷えた私に突き刺さった。
私は無表情でセーラーのポケットに
小包をしまった。
だけれど
これは拾ったものではなく、
『もらいもの』だ。
「やはり、礼をいいます。
ありがとう。とても綺麗でした」
「どういたしまして」
納得がいかないような顔で
作り笑いを浮かべる彼をみたのは
初めてだ。
彼には似合わないこと
この上なかった。
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